第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
「あいつ、昨日緊張して一睡もできなかったらしい」
松川はぼんやりと語って、足元の星砂をひと握り、大きな掌に収めてからサラサラと溢していった。
ふうん。
両手で双眼鏡をつくった及川が、ふんわりと相槌をうつ。彼は現在、脱がせたい水着ベスト3を決めている最中らしい。
「だからってあのタイミングで寝るか普通。まあ寝顔可愛かったし許すけど」
フロントホックタイプがお好みの花巻は、ちょっと呆れたように言ってから、ヘラリと笑ってみせた。
あ、それ同感。
目が合ったお姉さんに軽く手を振りながら、及川が同意する。
「でもまさかねー岩ちゃんが逆にコテンするとは思わなかったよねー」
やーんあの子イケメーン。
頬を染めたお姉さんから黄色い声が聞こえて、及川は満足げに鼻を鳴らした。
出たよ、及川の殺人スマイル。
性格知られた途端フラれるくせに。
花巻と松川は冷ややかな野次を投げて、ついでに星砂も投げておいた。
ぎゃっ! 痛い!
及川が情けない悲鳴をあげる。
「岩泉も素で寝てたんだべ?」
落ちていたヒトデを、花巻が投げた。
「さすが岩泉だわ、あの天然タラシ」
中身のない貝殻を、松川が投げる。
ちょ、二人とも痛いからね!
ついに涙目になった及川が抗議のために立とうとして、しかし、その肩をゴツゴツとした手に鷲掴まれた。
「誰が天然タラシだって?」
う、げ! 岩泉!
三人の顔色が一瞬にして青になる。
その直後、昼下がりのプライベートビーチに拳骨の雨が降ったのは、言うまでもない事実なのであった。