第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
飛行機はいつの間にか沖縄に到着していたらしい。瀬野はバッグを肩にかけ、人混みを縫うようにして機外へと降りていってしまう。
慌てて追うが、なかなか追いつかない。
やっとの思いで瀬野の腕を捕らえたのは、到着口を通り抜けてからだった。
「……あの、さっきはスンマセ……いや、ゴメンな」
瀬野の腕。
すげえ細い腕。
ちょっと震えるその手首を握ったまま謝ると、瀬野はこちらを見ずにブンブンと首を振った。
「……岩泉くんは悪くない、ので」
「でも、嫌だっただろ? 排球部(あいつら)にも茶化されちまったし」
そこまで言って返答を待つ。
一秒。
二秒。
瀬野はなにも答えない。
「……いや、じゃない、よ」
十秒以上待ってようやく貰えた答えがそれだった。明らかに嫌そうな顔じゃねえか、と思う。
こりゃ嫌われたな。
呑気にそんなことを考えつつ、俺はもう一度深々と頭を下げた。
及川が撮った写真は消させるから。そう言葉を加えると、急に瀬野がこちらを振り返る。
その瞳はなぜか少し悲しそうだ。
「俺、また何か嫌なこと言ったか?」
「……っえ、ううん、違くて、」
瀬野がそこまで言ったときだった。
学年主任の教師が、各クラスごとの整列を命じる号令をかけたのだ。
ううん、違くて。
その続きは何だったんだろう。
一組に帰っていく背中を見やりながら、俺は、延々とそんなことを考えるのであった。