第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
(しっ! マッキー静かに!)
(いや、だってこれは……っぶは)
(やらかしたな岩泉マジで)
…………ん?
聞き覚えのある三人の声で目が覚めた。どうやら俺も寝てしまっていたらしい。
重たい瞼をこすって視界を開く。
するとそこには顔、顔、顔。
バレー部の見慣れたメンツが雁首を揃えて俺を見下ろしている。
「……お前ら、何やってんだ?」
思ったことをそのまま口にした。
次の瞬間。
もう我慢ならないといった様子で、花巻が爆笑する。何で笑ってんだこいつ。
?マークを浮かべて首を傾げると、今度は及川がプスプス笑いながら話しかけてきた。
笑い方が気色悪い。すごく。
「何やってんだ、なのは岩ちゃんでしょ」
「…………は?」
「自分が何してるか見てみなよ」
ほら。
そう言って、及川がスマホを掲げた。
恐らくインスタ何とかであろうアプリの画面には、青城の制服を着たバカップルが映っている。
椅子に腰かけた彼女の肩に、男がもたれかかって寝ているのだ。つーかこれ、俺と瀬野だな。
俺と瀬野!!?
「は!? ……は!!?」
ガバッと上体を起こして、それから、勢いよく右を見た。
赤よりも赤くなった瀬野の顔。
涙目でこっちを見つめてる。
「あ、あの、……ご、ごめんね」
先に起きていたらしい瀬野は、消えてしまいそうな声でそう言って、そのまま席を立ってしまった。
俯きながら去っていく背中。
その小さな後姿を、バレー部全員の視線が追いかける。
一体何がどうなって体勢が逆になってしまったのか。いや、そんなことはもうどうでもいい。
俺は瀬野を追って駆け出した。
飛びかう野次を、全部無視して。