第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
「!?」
「………?」
「!!?」
思わず三度見した。
寝ぼけて幻覚でも見たんじゃねえかと思って、三度目はマジマジと瀬野の顔を見た。
ほどよく化粧された顔。
伏せられたまつ毛。
どうやら寝てるらしい。
聞こえてくる小さな息は規則正しく、その根源を辿ればそこには少しだけ開いた、く、くち、唇が──
幻覚じゃねえな。うむ。
(……マジでどうすんだ、これ)
そりゃ悪い気はしない。
むしろ良い気もする、ってそんな話をしてる場合じゃない。問題はこの現状をどうするかではなく、この事実をどう隠すかだ。
だって及川と花巻にバレてみろ。
大変なことになる。
もしくは、大変なことになる。
最悪俺が弄られる分には(あとで殴ればいいだけだし)どうでもいいけど、瀬野にまで災いが降りかかるのは阻止したい。
さて、どうしたもんか。
悶々と考えあぐねる俺の心中なんて露知らず、なんとも心地よさそうに眠るこいつ、瀬野絢香。
ふと下ろした視線のなかに、丈の短かすぎるスカートから伸びた彼女の生脚を見つけて、俺は絶句した。
睡眠による脱力。
わずかだが左右に開く、脚。
(これは、……ヤベエ、さすがに)
何がやばいのか。
ナニがやばいのだ。
俺だって男である。
ありとあらゆる葛藤が脳を駆けめぐって、結局、俺は理性を取ることにした。
着ていた制服のジャケットを脱いで、なるべく起こさないように瀬野の膝にかける。
それからまた窓の外を見て、というより睨んで、これ以上は瀬野のほうを見ないように努めた。