第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
結局、なぜ瀬野に名前を呼ばれたのか分からないまま、時間だけが過ぎていった。
及川はしきりに他クラスの女子、もとい、及川の実態を知らない女子から写真をせがまれていたし、花巻は吹奏楽部の女子からお菓子(しかも手作り)を貰ったりしていた。
ったく、どいつもこいつも。
色恋沙汰にさほど興味を抱いたことがない俺は、ひとり、ぼんやりと窓の外を眺める。
雲しかねえ。
当たり前か。
見渡す限りの白がつづく。
あの雲すげえ形してんな、とか。こっちの雲は旨そうだな、とか。我ながらに下らんことばかりが頭に浮かんで、浮かんでは消えていった。
「…………眠、」
空と、雲。
青と、白。
変わり映えしないコントラストにもいい加減飽きて、俺は目をつむった。
騒がしい同級生たちの声が少しずつ、少しずつ遠くなって、闇のなかに消えていこうとする。
──ポスッ
軽めの音と、柔い衝撃。
そのふたつに意識が引き戻されて、目を開ける。右肩に感じる重み。微かに香るのは、シャンプーみたいな匂い。
「……? ……!!?」
目玉だけを右斜め下に動かした俺は、とんでもない光景を見た。
俺の、右肩。
流れる濃茶色の髪。
そう、瀬野の頭が、俺にもたれかかっているのだ。