第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
シートベルト着用のランプが消えてすぐ、事件は起きた。
「……え、っと、ごめんね」
窓際に座ってる俺の、右隣。
ついさっきまで松川がいたはずの座席に、女子が座っている。いいか。もう一度言う。女子だ。つまり女が座っているのだ。
「……? ……???」
状況がいまいち飲みこめずにキョドる俺を、前にいるバカ二人が盛大にニヤニヤして見つめている。
反して俯いたままの女子。
二年のときに同じクラスだった子で、名前は絢香。瀬野絢香。
修学旅行の座席表なんて有って無いようなもんだ。教師の目を盗んで、こっそり【席替え】するのがある種の楽しみでもある。
それは俺も理解できるし、現に俺たちバレー部は、飛行機に乗るなりクラスの枠を越えて集まっていたワケだけれども。
(ほっぺが赤いよ岩ちゃーん!)
(襲うなよ岩泉! 絶対だぞ!)
あとで絶対どつく。
松川もどつく。
つーかどこ行ったんだよアイツ。
ヒソヒソ声で野次を飛ばしつづける及川と花巻を無視して、俺は無愛想なアヒル口を探した。
トイレに行くと言って消えた松川が、同じクラスの女子(しかも美人)に呼ばれて席替えしたと知ったのは、仙台空港を発ってから45分が過ぎようとしている時のことだった。