第8章 おやつにバナナを含ませたい (R18:岩泉一)
「岩ちゃーん」
「い、わ、ちゃーん」
「岩ちゃんてばー」
どうにかして俺の視界に映りこもうとするバカが、そのバカみたいな顔をひょこひょこと動かしている。
ざわついた機内。
乗客のほとんどを青城生が占めるこの1863便は、常夏の国、沖縄を目指していた。
浮かれまくりの生徒たち。
目を光らせまくる教師陣。
学生バッグに大いなる期待と、お菓子と、旅のしおりを詰めこんで、俺たちは故郷を飛びだした。
要するに修学旅行である。
「ん、もー! 無視しないでよ!」
未だにピーチクパーチク喧しいバカは、なにやら写真を撮りたいらしかった。
インスタなんとかっつうアプリに投稿したいんだとか。インスタ、なんだっけ。インスタントラーメンみてえだな。
まあいいか。
「撮ってやれよ岩泉」
ひょこん、と更にひとり。
前の座席から顔を覗かせたのは花巻である。及川のバカと隣同士に座っているのだが、この二人にコンビを組ませたくないのが俺の本音だ。
めんどくせえから。
非常に、めんどくせえから。
「ねええー撮ろうよー」
「セイ、チーーズ岩泉」
こいつら悪ノリさせると本当にロクなことがない。写真とか嫌いだって何度言えば分かんだクソ川てめえ。
困り果てた俺はだれかに、というか松川に助けてもらおうと、自分の右隣にSOSの視線を送った。
送ったんだけれども。
「はい笑ってー」
松川はすでにスマホを構えていた。
しかもフラッシュまで焚いていた。
今日も今日とて、俺のチームメイトはアホばかりである。先が思いやられる気しかしない。
上空一万メートルの密室。
フライトはまだ、始まったばかりだ。