第7章 少年期の終わりは時として (R18:日向翔陽)
「……や、めて、……翔ちゃん」
両手首を床に縫いとめられた状態で懇願するが、それは所詮、彼にとって脆弱な命乞いでしかない。
喉元に噛みつかれているのに、それでもなお逃げ出そうとする草食動物。その程度にしか思われていないのだろう。
ひときわ眩しい稲光が走った。
直後に、耳を劈くほどの雷鳴。
まるでそれが合図だったかのように、彼がその歯列で私に噛みつく。ひりつく首筋。痛い。鋭い刺激にギュッと目を閉じる。
「最近のカメラってすごいよねえ」
ねろりと舌を動かして、彼は言う。
「写真だけじゃなくてさ、ほら、動画も音声も盗れちゃうんだよ?」
彼が見せつけるようにして私に突きつけたのは、一台のスマホだった。
翔ちゃんが使ってる携帯じゃない。
きっと、盗撮用のそれだろう。
『あっ……ん、浩司、さん』
画質は荒いが、映像のなかで恍惚とする女は紛れもなく、私。淫らに身体をくねらせて、そこに居もしない男の名前を呼んでいる。
浩司さん。
私の、好きなひと。
私を、愛人として抱くひと。
『こう、じ……っあ、んん』
なんて馬鹿な女だろう。
彼は、翔ちゃんは、この映像を見てそう思っていたのだろうか。遠く離れた地で、私の情けない痴態を眺めて、どんなことを考えていたのだろう。
全部、見てたんでしょう?
私が浩司さんを想って泣いていたところも。浩司さんに抱かれるのを想像して自慰していたところも。浩司さんに捨てられて、──自害しようとしていたところも。
…………もう、全部どうでもいいや。
諦めたように目を伏せる。
つ、一筋だけ、涙の道ができた。