第7章 少年期の終わりは時として (R18:日向翔陽)
今更気付いた?
あっけらかんと告げた翔ちゃんは、やおら立ち上がってタンスのほうへと歩いていく。
引き出しの、三番目。
絶対に開けてほしくないそこに手をかけて、彼は躊躇なくその腕を引いた。
彼、知ってるんだ。
すべて知られてる。
がさごそと引き出しのなかを漁っていた彼が、くるり、180度反転してこちらを向いた。
その手には、ああやっぱり。私が自慰のために購入したバイブレーターが握られている。
おもむろに、スイッチをいれる彼。
ヴィ……ン
低いモーター音が響く。
「絢香ちゃんってば、いつまで経ってもおれの気持ちに気付いてくれないんだもん」
ずうっと見てたのに。
そう言いながら、彼が間合いを詰めてくる。一歩。こちらに近付いてくる。
「言ったでしょ? おれ、絢香ちゃんをお嫁さんにするって。昔は絢香ちゃんも嬉しいって言ってくれてたじゃん」
もちろん、覚えてるよね?
また一歩。近くなる。
「その気持ち、今になっても変わってないよ。ああ、でも、……それはおれだけだね」
──そう、俺だけだ。
あと二歩。彼が迫る。
ドンッ……!!!
耳元で、拳を床に叩きつける音。
「傷ついちゃうなあ、俺」
背面痛に顔が歪んで、息が苦しくなって、それから翔ちゃんの肩越しに天井が見えて、私は。
ああ、喰い尽くされる。
ただ漠然と、そう思った。