• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第1章  キミは宇宙の音がする (R18:灰羽リエーフ)



 ピアノはいいなあ、と思う。

 私たちが生まれるよりも前から音楽室(ここ)にあって、ただ漫然と、これからもここに在ればいい。

 三年という区切りもなければ、卒業も進路もない。いつだって淡い青春のなかに生き、思い出として過去に取り残されてしまうこともないのだ。


「嘘が下手スね、絢香さんは」

「ウソじゃない、……本当に、リエーフのことなんか好きじゃないんだってば」

「だったらどうして!」


 どうして。

 今日初めて声を荒げた彼は、甚く悲しげにこう続けた。


「……どうして嫌がらないんですか。どうして、拒まないの。お願いだから本当のこと言ってください。このままじゃ俺、……何するか分からない」


 ふ、と私を抱くリエーフの腕がその力を失った。失ってすぐ、世界が上下逆さまになる。

 背面には床。見上げる天井。
 天地が逆転した視界のなかで、リエーフの灰銀髪が微かに揺れている。


「リエ、フ……?」


 たどたどしく問うた。

 彼は何も言わなかった。

 見慣れたはずのライムグリーンを獰猛に光らせて、私の鎖骨あたりに視線を落とすだけだった。

 一拍、二拍。
 沈黙が続く。

 時間にすれば一小節分もなかったかもしれない。けれど私にはこれが永久に感じられたし、自身が置かれた状況を理解するのには、随分と時間がかかった気がする。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp