第7章 少年期の終わりは時として (R18:日向翔陽)
ふと、沈黙が訪れた。
それは会話と会話の隙間にできた、小さな沈黙だった。何の変哲もない、数秒の静寂だった。
翔ちゃんが、やけにゆっくりと目をつむる。
「……絢香ちゃん、ってさあ」
射殺すような、──眼差し。
桜葉のかたちに縁取られた双眼が、ただ一点、私だけを捕らえて離さない。
翔ちゃんは昔からこうなのだ。
なにか感情の昂ぶることがあったとき、とくに、それが怒りや興奮の類であるときに【これ】は起きる。
普段の彼じゃなくなるのだ。
普通じゃないと言ってもいい。
顔付きが違う。
オーラが違う。
何者をも近付けさせないような空気を身に纏い、対峙する相手を圧倒する。蹂躙する。
その恐ろしいまでの殺気が、だ。
現在進行形で私に向けられている。なぜ。考えたところで分からない。分かるはずもない。
絢香ちゃんってさあ。
そこで一旦言葉を止めた彼は、ただジッとこちらを見つめるだけ。
それは、まるで──
「絢香ー!翔くーん! お風呂空いたからあなた達も済ませちゃってー!」
パチンッ
そんな音が聞こえたような気がして、意識がクリアになる。
ハッとして彼を見ると、そこには「オース!」と元気に返事をする 翔ちゃん がいた。
今のは、一体──……?
訝るように首を傾げる。
壁にかけられた時計の針は、午後九時を指す前だ。窓のほうから聞こえるのは、雨の声。
タタッ パタタッ タタッ
嵐が、すぐそこまで近付いている。