第7章 少年期の終わりは時として (R18:日向翔陽)
「だめだよー!」
突如として響いたそれが空気を割ったのは、真司くんとやらに送るためのお見合写真を「どこの写真館で撮るか」で大人たちが揉め始めたときのことだった。
幼さゆえの舌足らずな声。
兄にそっくりな夏色のふわふわを揺らして、彼女はほっぺたを膨らませる。
「絢香お姉ちゃんは、お兄ちゃんをおよめさんにするんだから! ほかのひとはだめ!」
お、や?
何かがおかしいぞ。
大人たちがハテナ顔になる。
彼女の隣でオレンジジュースを飲んでいた兄は「ゴフッ!ゲホッ!」とむせこんで、それから慌てて妹の言葉を訂正した。
「ち、違うだろ夏! おれが絢香ちゃんをお嫁さんにするの! おれがお嫁さんになってどうすんだよまったくー!」
あら? あらあら?
んもう、やーねえ。
若いっていいわあ。
おばさん連中がうっとりした。
親戚中が見守るなかで堂々とプロポーズをしてしまったことにまだ気付いていない彼、日向翔陽。
彼が顔から火を噴いて「ちちち違うんです!」と弁明をはじめるのは、これより数分後のお話である。