第7章 少年期の終わりは時として (R18:日向翔陽)
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秋某日のある正午過ぎ。
私は大きな円形状の寿司桶を抱えていた。古めかしい木製の廊下に、ぱたぱたとスリッパの音が響く。
「お母さん、お寿司届いたよ」
白だしの香りがする台所を通りすぎながら、お吸物の準備をしている母に声をかけた。
「じゃあ居間にはなえといて」
「はーい」
「それからビールもね」
「はいはい」
母の「返事は一回でよろしい!」を背中で受けとめて、居間へと歩を進める。
閉じている襖にちょいちょいと爪先で隙間を開けて、それから足を差しこんで一気に蹴りあけた。
スパーン!
痛快な音とともに襖が開く。
「こら! 絢香!」
襖は静かに開けなさいって言ったでしょう!
そう続くのであろう母のお小言は、しかし、いつまで経っても聞こえてくることがなかった。
代わりに聞こえたのは、まるで別人格に憑依されたかのような母の甲高い声。
「あら~! 大きくなったわねえ!」
その声音と内容で、だいたいの予想がつく。叔父一家がやってきたのだろう。歳の離れた従兄弟、日向翔陽を連れて。