• テキストサイズ

(R18) 行かないで青春 (HQ)

第7章  少年期の終わりは時として (R18:日向翔陽)




 *


 秋某日のある正午過ぎ。

 私は大きな円形状の寿司桶を抱えていた。古めかしい木製の廊下に、ぱたぱたとスリッパの音が響く。


「お母さん、お寿司届いたよ」


 白だしの香りがする台所を通りすぎながら、お吸物の準備をしている母に声をかけた。


「じゃあ居間にはなえといて」

「はーい」

「それからビールもね」

「はいはい」


 母の「返事は一回でよろしい!」を背中で受けとめて、居間へと歩を進める。

 閉じている襖にちょいちょいと爪先で隙間を開けて、それから足を差しこんで一気に蹴りあけた。

 スパーン!
 痛快な音とともに襖が開く。


「こら! 絢香!」


 襖は静かに開けなさいって言ったでしょう!

 そう続くのであろう母のお小言は、しかし、いつまで経っても聞こえてくることがなかった。

 代わりに聞こえたのは、まるで別人格に憑依されたかのような母の甲高い声。


「あら~! 大きくなったわねえ!」


 その声音と内容で、だいたいの予想がつく。叔父一家がやってきたのだろう。歳の離れた従兄弟、日向翔陽を連れて。

/ 454ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp