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山田君の苦悩

第5章 秋の夜長は君と。


「ちょっと、なつっ…」

唇が重なり、体重がのしかかってくる。
どこうとしても、夏生の手は私の手を押さえていた。

「ぷはっ!!…急にどうしたのよ、」

「俺はこれぐらい楓の事が好きなんだ。
それなのに楓はまだ秋斗の事を忘れられない?」

「…ううん…でも、」

「良いんだよ、楓さえいてくれれば、俺はなんだってできるから。」

それから夏生は私を起こして抱き締めてくれた。

「でも…それじゃあ、夏生だけになっちゃうんだよ?」

涙が流れていた。
声も上ずって、言いたいことが言えなくなっていた。

「大丈夫。俺が守りたいのは楓なんだ…」

夏生も小さく、小さく泣いていた。
きっと、この時本当に夏生とわかり合えたって、そう思った。

........


昼間まで二人で抱き合っていると、流石に不味いと感じたのか、離れて笑った。

「楓、ありがとう。」

「ううん…彼女だもん、当たり前でしょ?
あ、そうそう。新しい曲作ったんだけど、聞いてくれる?」

「うん。聞かせて。」

ギターを取り出し、小さなアンプに繋げると、弦を弾く。
私の夏生への思い、
璋子の、美南の、有美の思いをこの曲に詰めた。

歌い終えると、夏生はいつも拍手をしてくれる。

「やっぱり楓は歌が上手いね。
それに、作曲もしたんでしょ?」

「うん。全部私。」

夏生は全部引っくるめて私を理解してくれている。
その時そう思った。

自分の事で手一杯なはずなのに、それでも彼は私を守ってくれていた。

「今度、ライブがあるんだ。
そんときにこれ歌うよ。」

「じゃあ、絶対に見に行く。」

手を差し出され、すっと繋いだ。

「なっちゃ~ん?二人で何してるのかなぁ?」

「か、母さん!!」

「不純異性交遊はダメって言ったわよね?」

その後、夏生が桃子さんに連れていかれたのは言うまでもなかった。
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