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山田君の苦悩

第6章 摂氏零度の二人の


手紙の最後に一枚の写真が入っていた。
そこには秋斗と佳奈子が手を繋いで笑っていた。

「あいつ…ホントに幸せそうだな…」

一緒に座っていた楓は俺以上に泣いていた。

「何で俺より泣くんだよ…」

「仕方ないじゃない。」

その封筒の下の何かに目をやると、秋斗が最初に買ったボケモンのゲームカセットが落ちていた。

「あ…っ…」

それに何か胸を動かされたように涙が奥の方から込み上げてきた。

「秋斗…俺、やっと…」

その涙は止まることを知らず、ただただフローリングの床に落ちていった。

「夏生、私忘れないよ…
死んでも忘れない…」

楓がしがみつくように俺に抱きついた。
彼女の体温を感じ、俺は微笑みながら涙を流した。

........

楓が寝つき、短い針が天井を過ぎた頃、母さん達に話しかけると

『秋ちゃんのお花、変えておいたからね?』

と言っていた。
それからしばらく、俺は楓の寝顔をみながら秋斗の写真楯を作っていた。

「…んぅ?あれ…夏生…」

「あれ、起きたの?
もしかして起こしちゃった?」

「ちがうわ。」

そう言って楓は抱きついてきた。

「好きよ、夏生。」

ただただ楓はそう言いながら抱き締めていた。

「俺も、好きだよ。」

静かな夜だった。


........


A.D.2097

ある病院。

「おばあちゃん!!」

「あぁ…良く来たね。」

病室には老女と高校生くらいの女の子がいた。

「ねぇねぇ、またおばあちゃんの話聞かせてよ。」

「いいよ…と言いたいところだけど、今日は面会時間が少ないから、また明日ね。」

「…そうだね。じゃあ、お花変えてくるね。」

女の子は花瓶を持って走っていった。

「ねぇ、おばあちゃん?」

「なんだい?」

「…おばあちゃんは…死んじゃうのは怖くないの?」

「…怖くなんか無いさ。向こうでおじいちゃんが待ってるからね。」

「…そっか!!」

そう言って女の子は部屋を出た。

「…そろそろ潮時かねぇ…夏生。」

と言うと、老女の前にふわふわと浮かぶ青年手を差し出していた。
老女がその手を取ったときには既にショートカットの女の子になっていた。

「久しぶり、楓。」

「ホント、久しぶり。」

二人はそう言ってどこまでも続く雪原で手を繋いでいた。
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