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山田君の苦悩

第3章 君の奏でる狂想曲


『さぁみんな!!
新たな恋人を祝おうじゃないか!!』

マイク越しに冴木がそう言うと、ドラムが鳴り響き、いつも楓が練習していた歌を弾き始めた。

「楓?」

「…ヒック…何?」

「歌わなくて良いの?
これ、楓が一生懸命練習してた曲でしょ?」

「でも、こんな声じゃ。」

「大丈夫だよ。楓は歌上手いから。」

そう言って立ち上がらせ、涙を拭ってやった。

「行けよ、楓。」

「うん!!」

俺は舞台裏に捌けて楓の歌を聞いていた。

.......

「楓、よく頑張ったじゃん。」

「頑張ったじゃないわよ!!
もう…あいつに泣き顔なんて見せたくなかったのに…」

「まぁよかったじゃん、璋子が切り出したから付き合えたわけだし。」

「美南…」

「お、噂をすればなんとやら、新郎がいらっしゃったぞ。」

「誰が新郎よ!!」

.......

「楓、もう片付け大丈夫?」

「う、うん…」

「どうかした?何か具合悪そうだったから。」

「…あのさ、教室寄らない?」

「あぁ、キャンプファイア見やすいしね。」

階段を登って2年2組の教室に入った。
楓はどうも様子がおかしく、もじもじしていた。

「誰もいないな。誰かしらいると思ったけど…」

「く、暗いね…」

「まぁ夜だしな。つか、さっきからどうかしたのか?」

「だって…私達もう…付き合ってるって事でしょ?」

「え?…まぁそうだけど…」

そう言ったきり、楓は黙った。
俺は少し間が悪くなり、そっと、楓の手を握った。

「!!やま…」

「夏生って、呼んでよ。
あの時みたいに。」

「…なつ…き…」

「ん?何?」

「手…」

「だって、もう俺達付き合ってるんでしょ?」

「うん…」

さっきの言葉をそっくりそのまま返してやったら、楓は少しふくれた。

「夏生?」

「何?」

「…何でもない。呼びたかっただけ。」

楓がいつものようにふわりと微笑むと、空に花が開いた。

「あ、花火…」

空に咲いた大きな花を他所に、俺たちは見つめあった。
そして、口付けをした。

6月の少し早い熱帯夜。
俺は楓と恋人になった。
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