第1章 口実。【森田剛】
「あ、あの……私もう、一人で帰れますので……」
「いいよ、送らせて?」
「あの……いえ、でも……」
ここ、思いっきりホテル街なんですが。
「……だめ?こういう経験、あるでしょ?」
私はなんとか逃げ出そうと必死で、気付いたらこう叫んでいた。
「わ、私っ、処女なんです!!!」
「へ?」
「ええ、この歳で、こう見えて処女なんです!!!だからっ、その、だめなんですううう!!!!」
「公衆の面前で処女発言すんな、馬鹿」
「へっ?剛!?」
気付いたら後ろから剛に頭を叩かれていた。
突然の芸能人の登場になのか、私の発言になのか、瀬尾さんもびっくりしている。
「あー、えっと、すいません。こいつ、酔ってるみたいなんで、俺が責任もって連れて帰ります。
これからも、こいつのことよろしくお願いします。……仕事上で」
「あ……は、はい」
剛の強い力に引かれ、私はなにがなんだか分からないまま、気付けば剛の部屋にいた。
「ちょっと手伝ってもらいたい事あるからさ、風呂入ってゆっくり落ち着いてこいよ」
「う、うん……」
戸惑っていたが、温かい風呂に浸かると、少し気分が落ち着く。
髪や身体を洗い、剛の用意してくれた服に着替えた。
同じ下着をつけるのが躊躇われたので、下着はつけていないが、この服なら特に問題ないだろう。
「剛、お風呂ありがとう」
「おう、落ち着いたか?」
「うん。で、手伝ってもらいたい事ってなぁに?」
「ん?こっち来て」
ソファに座る剛が手招きをする。
ソファの前の机の上には、台本が2冊、置いてあった。
「台本の読み合わせ、手伝って欲しいんだけど」
「うん、いいけど……」
以前にも何度か台本の読み合わせを手伝った事があるので、それは構わないのだが、なんだか妙に剛が落ち着き払っているのが気になる。
「じゃあ、ここから」
「う、うん……えっと…………えっ!?」
「ん?」
「これ、これって……その、えっと……」
きっと例の映画の台本なのだろう。
今まで口にした事のない言葉が書いてある。
「付き合ってくれるんでしょ?早く」
「う、うう、うん…………お願い、早く、触って」
「どこを?」
「へっ!?違う!台本の!」
「分かってるよ、俺のもセリフだから」
剛が笑いを堪えきれずに吹き出しながら言ったので、余計に恥ずかしくなる。