第1章 口実。【森田剛】
「森田剛!映画決まったんでしょ!?」
「そうそう!なんか今回本格的なベッドシーンあるらしいよー」
「うわぁー。やば、興奮する」
「相手の女優さん羨ましすぎー!」
ベッドシーン……か…………。
私は想像して顔を真っ赤にした。
いや、そういう経験ないけどもっ!!お恥ずかしながらこの歳にしてないけどもさ!!
剛が……そういうことを、するのか。
いや、そりゃあしてるだろうけども。
「……いいなぁ」
「なにが?」
「おん!?」
「お前、顔赤い」
目の前にいたのは、剛だ。
「あ、あう……な、な、なんでもないの!!なんでも!!」
「?ふーん……まぁいいや。途中まで一緒に帰ろうぜ」
荷物を持ってくれて、暗い夜道を二人で歩く。
なんか、さっきの想像のせいでまともに顔が見られない。
「おーい」
「い、医者!」
「いや、しりとりは始まってねぇんだけどさ……どうしたんだよ?なんか変だぞ、お前」
「変って、なにが?」
「なんか心ここにあらずって感じ。悩み事か?」
「ううん。そういうんじゃなくて。……あ、そういえば、映画決まったんでしょ?おめでとう!」
「お?ああ、ありがと」
「どんな映画なの?」
「お前が観たら、鼻血出しちゃうくらいのえっちぃやつ」
剛がからかうようにそう言ってくるが、些か間違ってなさそうなので怒るに怒れない。
「明日さ、制作発表とかあって、終わったら飯でも」
「あああっ!!!」
「どした!?」
「明日って、土曜日だよね!?」
「そうだけど……」
「飲み会誘われてるんだ、会社のー」
「いつも断ってるじゃん」
「たまには顔出さないとね。それに……なんか社長の息子さんが来るらしくて、ご挨拶しないといけないんだって」
「……へぇー」
「じゃあ、また明日の朝にねっ!!ばいばい!」
手を振ってを見送ったけど、なんか面白くない。
翌朝、いつも通りにが来た。
「おはよ」
「おはよー!お邪魔しますー」
もしかしたら、俺は毎朝、このエプロン姿でキッチンに立つこいつに欲情してたのかもしれない。
「あれ、、ここになんか付いてる」
「へ?なに?」
後ろから近付き、耳に息を吹きかけた。
「ふあっ」
今までに聞いたことのない声だ。
抱きつくくらいならなにも反応しないのに、顔が赤い。