第14章 霧の団
ハイリアが部屋から出たとき、ホテルの廊下はすっかり静まりかえっていた。
宿泊客や、ホテルの従業員たちは、とうに逃げたに違いない。
ホテルを襲った本人達である、盗賊の姿がまるっきり見えないことは、妙なかんじだとは思ったけれど、先ほど部屋に残っていた盗賊の残党も、急いで逃げ出していったのだから、当然なのかもしれない。
盗賊達が逃げるときに仲間と口走っていたのは、『頭領がシンドバッドに捕まった』という言葉だった。
賊軍として捕まるのを恐れて、仲間はリーダーを見放したらしかった。
結局、『霧の団』も、スラムのためと結成されたとはいえ、ただのゴロツキが集まった盗賊団だったのだなと、ハイリアは思った。
シン達が盗賊団のリーダーを捕まえたとなると、恐らく捕まったのはアリババか、カシムか、その両方かだ。
きっとその場所に、アラジンとモルジアナもいるのだろう。
広い廊下をぺたぺたと歩いていると、上の方が騒がしいことがわかった。
屋上だろうか。ようやく、仲間と合流できることに、ほっとした。
さすがに、あれだけの相手を一人で倒したのは久々で、えらく体が疲れていた。マゴイもかなり消費してしまった。
今日はよく眠れそうだと思いながら、長い階段を上がり、月明かりの眩しい屋上に出た。
そこではシンが、霧の団の残党と思われる盗賊団の少数一味に、向き合っていた。
シンの目の前には、傷ついてうずくまっているアリババの姿があった。
近くには、呆然とした様子で座り込む、カシムの姿もある。
辺りはなんだか焦げ臭いし、石造りの屋上の床は、ひび割れて、大きな穴まで空いていた。
何か一悶着あったみたいだ。雰囲気から察するに、シンが治めたのだろう。
しかし、このざわつきはなんだろうか。やけにみんなが騒いでいる。
騒動は、頭領が捕まったことで、収まったのではなかったのか。
「というわけで、今日から俺は君たち『霧の団』の一員になるぞ!! 」
シンが言ったことの意味がわからなくて、ハイリアは唖然とした。