第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
部屋を凍り付かせているあいつは、枯れたマゴイの流脈が筋状となって肌に浮き出るほど、マゴイが切れかけている。
その上、何をしたか知らないが、身体がひどく傷だらけだ。
このまま放っておけば、いずれ力尽きて事切れるだろう。
勝手に組織に入り込んで、親父どもの毒牙にかかったくせに、また自分のことを振り回すつもりらしい。
「ふざけやがって……。あのバカ、ぜってぇー許さねーからなっ!! 」
憤りを覚えながら、ジュダルは真っ黒なルフを彷彿とさせ、自身の身をボルグで硬く包み込んだ。
着替えもすんでいないこんな恰好で、何てことをさせるのだと思った。
急に叩き起こされて、ほとんどそのまま連れて来られたせいで、白い寝衣はすっかりはだけているし、結わえていない髪は、いくら首元に巻きつけても地面に垂れ下がってくる。
歩きにくくてただでさえイライラするというのに、こんな凍てつく暴風の中に、このまま入れというのだ。
「頼みますぞ、『マギ』よ! 」
「あの王を失うわけにはいきませぬ! 」
「うるせぇーよ、邪魔だからどいてろ! 」
── おまえたちのために、あいつを治めるんじゃねーんだよ!
部屋を凍り付かせる元凶を睨みつけ、ジュダルは杖を握りしめると、従者どもが近づけなかった部屋の中へ足を踏み入れた。
部屋に入ったとたん、背筋をぞっとさせる風のいななく音に囲まれる。
近づくことを拒絶するような鋭いあられが、ボルグに容赦なく爪を立て、削るような音を響かせた。
── くっそ、ただの吹雪じゃねぇーじゃねーか!
凍り付いた床から伝わる冷気が体温をじわじわと奪い、激しい風が押しつぶそうとボルグをミシミシと軋ませる。
倒れ込んでいるハイリアに一歩近づくごとに風は強くなり、身体が押し戻されそうだった。
仕方なく当たることで少しは風を打ち消すだろう雷魔法で、ボルグの周りを囲う。
「おい、ハイリア! 」
一歩ずつ近づきながら名前を叫ぶが、ハイリアは意識を失っているのか全く反応がない。
傷だらけのハイリアが倒れ込む床に広がる血だまりが、気持ちを焦らせた。
声も届かないのに、どうやってこんな魔法を治めればいいのだろうか。