第27章 緋色の夢 〔Ⅻ〕
「いいかげん、起きろよな……」
ため息をつきながら、ジュダルは寝台で眠り込むハイリアの手を握り、その側に座り込んでいた。
もう三日も部屋に通いつめているのに、全く起きる気配がない。
穏やかな寝顔に手を伸ばし、頬を強く引っ張ってみたが、目を開けなければ、顔を歪めもしなかった。
何の反応も返ってこないことに、ひどく虚しさを覚える。
── なんで親父どもを探りなんかしたんだよ……、ハイリア……。
ゆっくりと落ち着いた呼吸を繰り返すその姿を見つめ、また溜息が出た。
首筋にはめ込まれた赤い石のつく銀のチョーカーに触れると、冷たく無機質な感触が伝わってきて、なんとなく苛立ちが募り、顔をしかめた。
あの日のことを思い出したからだ。
三日前のあの日……。
ハイリアが魔法を暴走させた日のことを。
こいつの記憶を夢で見させられて、紅覇に騒がしく起こされたあの朝。
慌てた様子で部屋に来た覆面の男に連れられて、アジトの地下牢にたどり着いたとたん、そこで待っていたのは、破壊つくされた牢獄を凍てつかせるハイリアの姿だった。
何もなくなった部屋の中に倒れ込むハイリアは、なぜか全身に切り裂けたような傷が浮き出ていて、その身を真っ赤に染めていた。
青白いマゴイの光を湧き出させるその身体には、蛇のような漆黒の闇が絡みつき、周囲に飛び交うルフたちをざわめかせながら、部屋をさらに凍りつかせようと吹雪を巻き起こしている。
「なんだよ、これ……。どうなってやがる!? なんであいつ血まみれなんだよ! 」
「我らにもわかりませぬ。金属器の実験結果を知ろうと来てみれば、こうなっておりまして! なぜハイリア殿から、あのような魔法が起こっているのかも……! 」
「中へ入ろうとしても、我らでは近づけないのです! このままでは、いつこの部屋が壊れ、アジトが崩壊するかもわかりません。
いくら魔法で補強されているとはいえ、防壁がいつまでもつか……! 」
「『マギ』よ、早くあの魔法を止めて下され! あの王とて、これ以上マゴイを消費しては死んでしまいますぞ! 」
口々に勝手なことを言う覆面の男たちに苛立ったが、あいつを止めないとマズイことはわかった。