第9章 「シン」という男
案内された部屋は、実に豪華な部屋だった。
広々とした部屋といい、きらびやかな内装は、貴族にでもなったかのようだった。さすがは国一番の高級ホテルだ。
見事な装飾に、モルジアナも驚いて部屋を見渡している。
「わー! ゴージャス!! 」
部屋に入るなり、アラジンは勢いよく豪勢なベッドに飛びついていった。
「モルさんも、ハイリアさんもおいでよ! とっても楽しいよ! 」
無邪気にベッドで跳ねてはしゃぎながら、アラジンが言った。
その様子をみていると、さっきまでの緊張感が抜けていくから不思議だった。
部屋まで案内してくれたお姉さんも、アラジンを見てクスクスと笑っている。
「では、何かわからないことがあれば、なんでも聞いてくださいね! 」
お辞儀をして、部屋の扉に手をかけたお姉さんに、アラジンが、はっとして声をかけた。
「そうだ、お姉さん。一つ聞きたいことがあるんだけれど、アリババくんって人を知らないかい? 僕の友達なんだ! 」
アラジンがそう言うなり、案内人のお姉さんは青ざめて、表情を引きつらせた。
「し、失礼しました。少し驚いてしまって……。よく考えたら、そんなに珍しい名前でもないのですよね……ただ、今この国で『アリババ』といったら、指すのはただ一人なので……」
お姉さんは息をついて、気持ちを落ち着かせながら言った。
「アリババといったら、『怪傑アリババ』のことです。この国一番の犯罪者ですよ」
この国を騒がせている『霧の団』という盗賊団のトップが『アリババ』なのだと、お姉さんは説明を終えると部屋を静かに出ていった。
「今の話って……? アリババって、まさか……」
急に飛び込んできた情報に、ハイリアは胸騒ぎを覚えて、アラジンとモルジアナを見つめた。
「盗賊の話みたいだったね。でも、アリババくんはそんなことしないと思うし、きっと別人だよ! 」
「そうですね」
アラジンとモルジアナは、二人で顔を見合わせて頷いた。
確かに、二人が話すような人なら、盗賊なんかになるはずがない。きっと別人のはずだ。
アリババと聞いて、すぐにその人だと思ってしまったのは、きっと自分が『アリババくん』に会ったことがないせいだろう。