第9章 「シン」という男
シンに連れられて到着したのは、国一番だという高級ホテルだった。
ここに泊まっているのだという。
豪勢な外観といい、大きさといい、周囲のホテルとは比べものにならない。よっぽどのお金持ちじゃないかぎり、泊まれないだろう。
こんなところに泊まっているシンとは、本当に何者なのだろうか。
「宿代は俺が出そう。助けたもらった礼だ。お金は先に来ている部下が払うから、好きなだけ泊まっていくといいよ」
シンはニコニコとそう言った。
「ありがとう~! おじさんお金持ちなんだねぇ~! 」
大はしゃぎするアラジンと、恐縮しておじぎをするモルジアナをよそに、ハイリアは複雑だった。
とりあえず、シンが盗賊や人さらいではないことに安心はしたが、結局、正体がわかっていない歯がゆさが残ったからだ。
そして何より、「心配することなんてなかっただろう」とでも言いたげに、わざとらしく笑顔を向けてくるシンが腹立たしかった。負けた気がしてイライラとする。
ホテルに入るなり、シンの元にやってきたのは、部下だという二人組の男だった。
一人は、赤髪で長身の男性。剣を腰に携えているので傭兵だろう。
もう一人は、色白のひょろっとした優男なのだが、身なりを見る限り、どこかの官史のように見えた。
傭兵といい、官史といい、商人の連れにしては足りすぎている。シンが商人でないことは明白だった。
「私どもの主人がご迷惑をおかけしました。主人の命令通り、あなた方の宿代は、どうぞ私どもにお任せ下さいね」
官史だと思われる優男が、ハイリア達に柔らかな笑顔で丁寧な礼を述べると、顔つきを変えてシンに向き合った。
「さぁ、あなたはそのはしたない服をなんとかしてください! 」
鋭い口調で言った官史の部下に、シンはぐいぐいと引っぱられていく。
「じゃあな! アラジンに、モルジアナと、ハイリア。明日、飯でも一緒に食おう! 」
部下に引きずられながら、シンはハイリア達に明日の食事を約束させて、部屋へと戻っていった。
その後、絶妙なタイミングでやってきたホテルの従業員に案内され、ハイリア達も宿泊部屋へ移動することになった。