第9章 「シン」という男
気づけば、いつの間にかシンのガイドは終わっていたようで、アラジンとモルジアナは、ハイリアの後ろで別の話をしていた。
「……それは、無理です。よくわからない人ほど恐いですから」
ハイリアが、はっきりと言い返すと、シンは困った表情で苦笑した。
そんな変態みたいな格好で、信用しろと言われたって無理な話である。
「あなたは、本当は何者なんですか? 」
じっと、疑いの眼差しでハイリアは怪しい男をみた。
「だから、商人なのだよ」
こちらは真剣に聞いたというのに、笑顔で誤魔化すシンを見て、不信感が募った。
「絶対うそです。あなたみたいな商人、見たことがないです」
「そう言われてもなぁ……。少なくとも、君たちに危害を与えるつもりはないよ」
言葉に詰まったのか、シンは困り果てた様子でため息をついた。
結局、この人は答えられないのだ。何かを隠しているような人のことを、信用なんて出来なかった。
「やっぱり、信用はできません」
きっぱりと言い放ったハイリアに、シンがため息混じりに言う。
「君がそう思うなら仕方がない……。でも、その恐い顔はやめた方がいい。眉間にしわが寄っていては、せっかくの美人が台無しだ」
突然、恥ずかしげもなく言われた言葉に、ハイリアは困惑した。
普段言われもしない言葉のせいか、顔が一気に熱くなった。
「……っ!! やめてください! 」
恥ずかしくなって、ハイリアは慌ててうつむいた。
からかわれたと思うと悔しくて、そのあとはシンが話しかけてきても、ハイリアはずっと黙っていた。