第6章 盗賊の砦
あとは、一発殴りでもして、分厚い入り口の扉を壊せばいいのだが、体力はなるべく温存しておきたいので、ハイリアは古典的な方法で扉を開けることにした。
壊れた枷の破片から大きなものをいくつか拾うと、順番に、力いっぱい鉄の扉に向かって投げつけたのだ。
鉄の扉にぶつかった破片は、鍋の蓋を思い切り叩いて鳴らしたみたいな音を、ぐわん、ぐわんと、大音響で響かせた。
何度も独房に騒がしく響く音が、扉の外に聞こえないはずがなかった。
すぐに外から駆けつけてくる足音がした。
「うるさいぞ!少しは静かに……! 」
声を荒上げながら、勢いよく扉を開けて入ってきた奴隷商人の巨漢が、ハイリアと目があったのはほんの一瞬だけ。
目があったときには、すでにハイリアが突いた拳を一発腹部にくらっており、すぐに崩れ落ちるようにばったりと倒れてしまった。
男はしばらく起きることはないだろう。ハイリアの体術は、普通の体術とは違うからだ。
ハイリアは、東の小さな村で生まれたが、幼少期に村を滅ぼされたことをきっかけに、すぐにキャラバンの連中に拾われた。
その拾われたキャラバンが、各地で行商をしながら、武術大会で実力をためす猛者の集まりだったがために、ハイリアは幼い頃から、キャラバンの兄貴分に毎日武術の稽古をつけてもらうことが日常だったのだ。
猛者の兄貴分の中には、ヤンバラの出身の者もいた。
魔力操作を扱う武術が得意だったその人から、マゴイの扱いまで習ったハイリアは、自然と魔力操作を扱えるようになった。
結果として気づけば、少々癖のある体術を身につけていたのである。
強大な獣にさえ大ダメージを与えられるこの体術で、たかが一介の盗賊や奴隷商人に、ハイリアが負けるなんてことは、まずありえないのだ。
マゴイをほぼ出さないように調整しても、体術と重ねると、巨漢でも一撃で倒れる程の威力になるのだから。
「待ってて、モルジアナ、ナージャちゃん! 」
気合いを入れ直し、ハイリアは二人を助けるために急いで駆けだした。
無理矢理、掘られたような岩壁の細い通路を抜けると、すぐに広い一室へと飛び出した。