第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
「い、や、よ! 」
わざと強調して言ってみせると、ジュダルは急につまらなそうな顔をした。
「俺がこれだけ頼んでるってのに、冷てぇーやつだなー……」
「どこが頼んでるのよ? いつも勝手なことばかりやっているから、部下から信用されないんでしょ? 」
「おまえ……、普通、自分で言うか? 」
呆れた顔でジュダルが言った。
「私が言わなきゃ、他に誰が言うのよ? 従順な従者からは、きっとはっきり言われも、怒られもしないんでしょー? 」
「勝手なこと言いやがって……。まー、おまえほど、やかましい奴はいないかもしれないけどな」
「やっぱりね。そんなんだから、こんな我が儘し放題になっちゃうのよ! 少しは人の気持ちも考えて行動するってことを覚えてもらわないと困るのに……」
「へぇー……、言わせておけばよくしゃべる口じゃねーか。おまえ、散々言っておいて覚悟はできているんだよな? 」
にっこりと穏やかな笑みを浮かべて、ジュダルが言った。
その手にはいつの間にか杖が握られていて、こちらに静かに向けられていた。
なんだか足が軽い気がして地面をみれば、浮遊魔法にかけられているようで足下が浮いていた。
ジュダルがひょいと杖を手前に引くように動かすと、体が勝手にジュダルの方へ浮いたまま移動していった。
手足をばたつかせるが、周りにつかむものなんて当然ない。
「ちょっと! 魔法なんてずるい! 」
「俺を信用しない、おまえが悪い! 」
にやつきながら座るジュダルのすぐ真上で、浮遊魔法は解かれた。
腕を伸ばしていたジュダルと、向かい合うような形で落とされたせいで、そのまま受け止められながら抱きしめられた。
体のぬくもりに恥ずかしくなって、顔が火照った。