第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
「うわ!? ジュダル! 」
飛び退くように立ち上がって、慌てて彼との距離を置いた。
自然と身構えていた姿を見て、ジュダルは不思議なものでもみるような顔をしていた。
「何やってんだ、おまえ? 急に髪なんか下ろしてどうしたんだ? 」
まるで何も覚えていませんといった様子で言ったから、なんだか腹が立った。
「なにそれ!? こうなったのも全部……! 」
ジュダルのせいだと言い放とうとして、先程の行為を思い出してしまった。
急に恥ずかしくなって、あとの言葉が続かなくなり、ぱくぱくと唇だけが動いて顔が熱くなってきた。
「全部……、なんだよ? 」
顔をしかめながら近づいてきたジュダルに、焦って両手を前に突き出した。
「……なんでもない! もういいから! 」
これ以上来るなと示しながら、ジュダルと距離をあけるため、少し後ろに下がった。
「何がもういいんだ? 感じ悪いぞ、おまえ」
ジュダルが不機嫌そうな声で言った。
気にせずに歩いてくる彼の姿に、妙な焦りを感じた。とにかく今、近くに来て欲しくない。
じりじりと下がる姿に苛立ったらしいジュダルは、歩調を早めてきた。
「おい、何なんだ?! 言いたいことがあるなら、はっきり言えよ! 」
「もういいの! いいから放っておいて! 」
頬が火照るのを感じながら、さらに後ろに下がりこむ。
「何なんだよ、ふざけやがって! 」
ずかずかと勢いよく踏み込んできたジュダルに、余計に焦った。
急ぐ足がもつれて、後ろに下がるよりも早く追いついてきた彼に、強く腕を掴まれた瞬間、頭の中で何かがすっ飛んだ。