第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
柔らかな日差しが降り注ぐ庭園で、ハイリアは座り込み、文書を広げ読んでいた。
紅炎からの書簡に書かれた、詳細な内容を頭に入れようとするが、上手く頭に入っていかない。
さきほど本を読んでいた梅の木に、背を預けながらため息をつくと、ゆっくりとその書簡を閉じた。
―― まさか、こんなに早くに武人として地に立つことになるとは、思わなかったなぁ……。
極東平原の統一に乗り出すことはわかっていたが、本当に自分が武官としてその中に任命されるとは、正直思っていなかった。
思いたくなかったのかも知れない。文章を読んでも、全く実感が持てないのだから。
統一部隊の中で、白瑛や青舜と同じ所属になったのは、きっと紅炎がしてくれた配慮だろう。
白瑛は、無理矢理戦いで地を治めるような考えを持つ将軍ではない。
平和的な考え方をもつ白瑛や青舜と同じ戦場に立つのであれば、心の負担もいくらかは減りそうだった。
けれども、いくさをすることには変わりないのだ。そう思うと、気分は複雑だった。
キャラバンで駆けていた頃の穏やかな草原の風を思い出して、そこに暮らす遊牧民の一族の笑顔が浮かんだ。
穏やかな暮らしをする人達だった。彼らの住む場所を奪ってしまうのかと思うと、胸が痛む。
あの綺麗な草原に住まう人達を、自分も傷つけるようなことになってしまうのだろうか。
両腕にはまる銀の腕輪に視線を移すと、星の描かれた金属器がぎらりと鋭く光っていた。
恐くなって空を見上げれば、庭園に咲き誇る紅の花弁が視界いっぱいに広がった。
血痕のようなその色に青ざめて、膝を抱えてうつむいた。
漂う濃厚な甘い香りが、急にむせかえるように感じて、気持ち悪かった。
目を閉じて、薄暗い闇の中に意識を落とすと、少しずつ気持ちが落ち着いていった。
静かな風の音を聞きて気持ちを和らげていると、側で足音がした。
顔を上げると、いつの間にかジュダルが側に立っていた。