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【マギ*】 暁の月桂

第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕


「紅炎様、入りますよ! 」

ハイリアが桃を抱えて書庫に入ったとたん、いつもの机で何かをしている紅炎と目があった。

本を読んでいるのだろうと思っていた手には筆が握られていて、こちらの姿をみるなり静かに机に筆を置いたのが見えたから、少し気まずくなった。

よくみれば、机の上に広げられているのは書物ではなく、書きかけらしい書簡の山だった。

「すみません、お邪魔してしまったみたいで……。出直してきます」

「気にするな、大した文書ではない。桃を持ってきてくれたのか? 」

慌てて書庫を出ようとしたハイリアを、紅炎は呼び止めた。

「はい、ちょうど食べ頃ですし、いつも紅炎様にはお世話になっていますから、少しですけれどお礼にと思いまして」

机の側に駆け寄りながら、ハイリアは笑顔を浮かべた。

わざわざ作業を止めてまで、手を差し伸べてくれた紅炎に、持っていた桃を手渡した。

机の上に並んでいた書簡の数は多くて大変そうなのに、紅炎は急ぐ様子もみせずに受け取った桃を、机の側に置いてくれた。

「ありがとう、仕事の合間にでも食べさせてもらう。お前は本当に気が利くな」

紅炎は穏やかに笑みを浮かべて、ハイリアの頭を撫でた。

照れくさいがなんだか嬉しかった。

「この時間にここへ来るのは珍しいな。ジュダルはいないのか? 」

「ちょうど、従者に呼ばれて行ってしまったので。また神事なのかもしれません」

「そうか……、あの組織の者どもがこの時間に動くのは珍しいな」

考え込むような素振りを見せた紅炎に、少し疑問を感じた。

あまり従者のことを好ましく思っていないようにみえて、ハイリアは先程話した好きにはなれなそうな従者の一人を思い出した。

「紅炎様も、あの従者の人達と話されたことはあるのですか? 」

「あるが、それがどうかしたか? 」
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