第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
「じゃあ、仕方ないね。呼び止めてごめん。行ってらっしゃい! 」
「ああ、また後でなっ! 」
手を振ったジュダルの後ろ姿を見送って、ふと何かに怒っていたような気がして庭園を見渡せば、側に敷かれた赤い絨毯の上に熟れた桃の山があってハッとした。
結局、ジュダルに振り回され、いつの間にか許す状況に追いやられている自分に不甲斐なさを感じたが、何だかもうどうでもよくなっていた。
それよりも、さきほど妙なことをされたせいで、まだ感覚が残っていた。
思い出すだけで、顔から火が出るほど恥ずかしくなってきて、落としてしまったトラン語の本を拾い、わざと難しい文字の羅列を眺めて気持ちを落ちつかせた。
体の火照りがおさまってきた頃、絨毯に山積みになっている美味しそうな熟れた桃へとやっと視線を移した。
これだけあるならば、ジュダルが戻ってくる前に少しお裾分けしても大丈夫そうだ。
ハイリアは絨毯の側に本を置き、いくつか桃を手に取ると、何かといつも世話になっている紅炎の元へと向かうことにした。