第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
「これは、失礼致しました。しかし、本当に面白いお方でいらっしゃる。
穏やかな考えをお持ちのはずなのに、貴方様の鋭い眼差しには刺すような覇気が宿る。とても市井の生まれには見えませんね。
神官殿が、貴方様を王の器に選ばれた理由もわかる気が致します」
「王の器? 馬鹿なことを言うのはやめてください」
話そうと思った自分が馬鹿に思うくらい目の前の男が嫌になってきて、ハイリアは本を抱えて立ち上がった。
華やかな梅の庭園を後にしようと歩き出した瞬間、男の声が響いた。
「おや、もしやご存じでないのですかな? 『マギ』に選ばれ、金属器に手にした時点で、貴方様は王の器なのですよ」
「……どういうこと? 」
立ち止まって振り返ったハイリアの目の前で、覆面の男の漆黒のルフがざわめいた。
「言った通りですよ。『マギ』とは王の選定者。迷宮を攻略し、金属器を得るということは、王の資格を得たということ。ハイリア殿は、紛れもなく王の器なのですよ。
そして、貴方様が望みさえすれば、もっと強大な……」
「おい、俺の断りもなしにそいつと話すんじゃねー!! 」
空から飛んできた怒声に、覆面の男はぴたりと言葉を止めて空を仰ぎ見た。
同じようにハイリアも空を見上げた瞬間、拳大の丸いものが目の前に飛んできているのが見えて、すぐにそれが額にめり込むようにぶつかった。
「痛ったぁーーい!! 」
激痛に悶えながら額を押さえれば、額が濡れていてぬるりとしたものが指に絡みついた。
一瞬血が出たのかとも思ったが、よくみれば地面に半分つぶれた丸いものが落ちていた。熟れた桃だ。
とんでもない凶器が飛んできた空を、涙目になりながら睨み見れば、やはり赤い絨毯に立つジュダルの姿があった。
絨毯の上には、どこからか取ってきたらしい桃が山積みになっている。
こちらが従者と話していたことが気に入らなかったようで、不機嫌きわまりない顔をして腕を組み、空から見下ろしていた。