第19章 緋色の夢 〔Ⅳ〕
「信じられない! なんてもの投げるのよ! 」
「うるせぇ! 」
赤い絨毯から降り立つなり、ジュダルはこちらの怒りもお構いなしに、従者から距離を置かせるように腕を力任せに引いてきたから、足がもつれて危うく転びそうになった。
ジュダルは従者の男に詰め寄ると、睨みをきかせて言い放った。
「なんでここにいる? このバカとは必要時以外話すなと言ってあるだろ! 」
「これは失礼致しました、『マギ』よ。我らにお力添えを頂きたく探しておりました。ハイリア殿には所在をうかがっていた次第です。少しお話が過ぎてしまいましたが……」
「行ってやるから、今すぐにここから消えろ! 」
「仰せのままに」
覆面の男はジュダルに向かって深々と一礼をして、そのまま宮廷の中へと足早に歩いていった。
追い払ったその男を最後まで見送ることもせずに、ジュダルは鋭い視線をこちらへ向けてきた。
「ったく、なんでおまえは……! 」
苛立つジュダルの態度に腹が立った。
額はまだ衝撃が残りズキズキと痛むのに、それを謝ろうなんて気は彼にはないようだった。
まるで自分が悪かったかのように怒鳴りつけてくるのだろうと思うと、無性にイライラとしてきて、収まらない怒りにハイリアは本を抱え込んだまま、わざとそっぽを向いて黙り込んだ。
―― 絶対、謝るまで許してやるもんか!
今日は怒ってこようが、八つ当たりしてこようが黙っていると決めた。
少しは人に謝るとか、反省するってことを覚えたらいいんだ。
視線を地面に向けたまま、ふつふつと湧き上がってくる怒りを静かに、静かに、胸の中で燃やした。
「おい、ハイリア! こっち向け! 」
怒鳴ってきたジュダルの声が聞こえて、やっぱりと思った。
こちらが反応を示さないといつもそうだ。彼の基準は、いつも勝手気ままな彼自身だ。