第6章 盗賊の砦
力が抜け、倒れ込んだ身体をどうにか動かそうともがく中、そこへゆっくりと近づいてきた人影は、昼間みかけた灰色の長髪をした奴隷商人の男だった。
紅のついた口元をつり上げて、妖しく笑う男に苛立ちを覚えた瞬間、意識が途絶えたのだ。
あの後、どうやら自分も囚われたらしい。硬い岩壁で囲まれたここは独房だろう。
モルジアナの隣で、ハイリアは、天井を見上げる体勢で寝そべっていた。
ごつごつした床から、身体を起こそうとして、手足が上手く動かないことに違和感を覚えて見ると、いつの間にか、手足に立派な枷がついていた。
頑丈そうな鉄の枷をみて、思わず苦笑した。
もぞもぞしながら、どうにか座り込むと、ようやくハイリアも、モルジアナと同じくらいの目線の高さになることができた。
正面には厚い鉄の扉が見えるようになり、ため息が出た。
隣に座り込んでいるモルジアナは、どういうわけか、ひどく落ち着いていた。
といっても、足にはハイリアよりも頑丈そうな足枷がきっちりとつけられていたけれど。
「私、かなり寝ちゃってたよね……」
「はい……。私もですが」
「そっか……」
モルジアナの声を聞き、冷静になってきた頭で、ハイリアは現在の外の状態を考えた。
時間が随分たったのなら、モルジアナが倒した盗賊も、今はいくらか動ける状態に戻っているのだろう。
手足の枷を外すだけなら、すぐできるけれど、相手の人数が多いんじゃ、逃げるには分が悪い。
その後の勝機が微妙なら、今は下手に動くべきじゃないだろう。
モルジアナの側には、もう一人、寝息をたてている小さな少女がいた。
足枷をつけられた子どもだ。こんな小さな子どもまで、あの奴隷商人は捕まえるらしい。
腹立たしい気分になりながらハイリアは聞いた。
「その子は? 」
「ナージャさんです。奴隷になりたくないと泣いていたのですが、泣き疲れて眠ってしまったようです。でも大丈夫です。隙を見て逃げるつもりです」
淡々とモルジアナは言った。