第6章 盗賊の砦
目覚めたのは、悲しいことに薄暗く、硬い床の上だった。ぼんやりとする頭の中に、聞き覚えのある声が響いた。
「ハイリアさん! ハイリアさん! 」
気づけば赤毛の少女が、ハイリアをのぞき込むようにして見下ろしていた。
モルジアナだ。先ほどから声をかけてくれていたのは、彼女だったらしい。
相変わらず表情が硬いけれど、それでも心配してくれているのはわかった。
「……よかった。無事だったんだ、モルジアナ」
倒れていたはずの彼女が無事だとわかって、ハイリアが安堵した表情を浮かべると、モルジアナは少し驚いて、それからため息をついた。
「無事じゃありません。このままでは私たちは奴隷にされてしまいます」
奴隷……という言葉を聞いて、ハイリアは、ぼんやりと身に起こったことを思い出した。
盗賊の砦にたどり着いたハイリアが、アジトに侵入して目にしたのは、何者かに倒された盗賊達の姿だった。
攻め込もうと忍び込んだというのに、すでに壊滅しているアジトの光景をみて、モルジアナの強さに感心したのも覚えている。
助けにくるだけ無駄だったかもしれないとも思った。
盗賊を倒したなら、さっさとモルジアナを連れて、キャラバンへ戻ろうと、彼女を探している時だった。
アジトの中央にある広場にモルジアナが倒れているのを見つけたのは。
力なく倒れているモルジアナを見て、気が動転した。アジトを壊滅させたあと、力つきてしまったのだろうかと思った。
怪我をしているのかもしれないと思って、彼女に駆け寄った時、今思えば油断していた。
もう敵はいないだろうと思いこんでいたのだから。
周囲に気を向けていなかったせいで、空から迫る黒い影に気づくのに遅れたのだ。
とっさに攻撃を避けようとしたけれど、逃れることができず、防御をとった腕に鋭い痛みが走った。
そして、すぐに世界が反転したかのようなめまいと、急激な眠気に襲われたのだ。
恐らく、襲いかかったのは毒をもつ鳥だとわかったけれど、その時には力が出なくなっていて、何もできずに倒れ込んだのを覚えている。