第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
出会った時に見た、怒りや憎しみで染まっていた黒いルフは、いつの間にか消えている。
こいつが宮廷に入って、しばらくしてから気がついた。
こいつは、誰かに怒りを覚えて憎み、身に宿るルフを黒く染め上げても、そのうち何もなかったかのように、あっさりとルフの濁りを無くしている。
一度、黒に変じさせたルフを自力で元へ戻す奴など見たことがない。
何か特別なことをしているようにも見えないのに、いったいこいつは何なのだろうか。
黒き器と見込んで連れてきたはずが、いつの間にか振り回されているのはこっちの方だ。
何があろうとまっすぐ向かってくるせいで、えらく扱いにくい。
すばすばと遠慮無くものを言ってきては、いちいち怒ってきたり、泣いたり、笑ったりと、わけがわからない。
そのたびに、こちらの感情までかき乱されて、妙な気分にさせられるから苛立つのだ。
こちらの言うことは一向に聞こうとしないし、本当に勝手な奴だ。
ただ、こいつが来てから煌の空気も変わった気はする。宮廷が、どこか居心地良くなったような気が……。
―― 何考えてんだ、俺……?
おかしな気分になっていて、ジュダルは苦笑した。最近はどうも調子が狂って変だ。
こちらの気も知らないで、眠りこけているハイリアが寝返りを打った。
座り込むジュダルの方へと顔を向けたハイリアは、ただでさえ無防備な寝顔をしているというのに、紫の深く入ったスリットから真っ白な足を大きく露出させていたから、目のやり場に困った。
こんな体の曲線がわかるような服を着ているというのに、何も考えていない辺りが本当に抜けている。
この分だと、水魔法から助けてやった時に着衣が乱れていたことにも気づいてなさそうだ。
「おまえ、もう少し自覚を持ったほうがいいぜー? 」
眠っている本人に向かって言ってやったが伝わるはずもなく、ハイリアは変わらず安心しきった表情で寝息をたてていた。