第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
昼下がりの宮廷の廊下を、ジュダルは昼食が入った籠を片手に持ちながら、気だるそうに歩いていた。
「ったく、やっと昼飯だぜ……」
手に取った桃にかぶりつきながら、修復を終えた屋根の上まで浮遊魔法で飛び上がると、さっきまで起きていたはずのハイリアは、いつの間にか横になって眠っていた。
―― ついでに昼食を持ってきて欲しいなんて言ったのは、どこのどいつだよ……。
わざわざ調理場から取ってきてやったというのに、すーすーと気持ちよさそうに寝息をたてている側近の姿に呆れながら、ジュダルは声を張り上げた。
「おい、ハイリア! 持ってきてやったんだから起きろ! 」
ジュダルの大きな声が響いたが、ハイリアはすっかり夢の中のようで、ぴくりとも動かなかった。
「おい、起きろって! 」
体を揺すってみても、軽く寝返りをうつだけだ。
頬をつまんで引っぱってみても起きないハイリアに、ジュダルは困り果てて座り込んだ。
「……起きねーなら、全部食っちまうからな? 」
起きる気配のない側近に向かって言いながら、ジュダルは籠の中にある点心を掴んで頬張った。
食べながらぐっすりと眠り込んでいるハイリアに視線を移す。食欲だけはいつもあるやつが、食事を放棄してまで眠りこむとは珍しかった。
近頃も、宮廷内を走り回って忙しそうにしている姿を何度か目撃していた。
きっとまた断ればいい仕事まで引き受けて、まともに寝てなかったのだろう。
―― ほんと不器用なやつ。なんでもくそまじめにやりやがって、バカじゃねぇか。
すやすやと眠っているハイリアは、今日はちゃんと女らしい格好をしているせいか、普段は少年のようにしか見えないのに、いつもと違って見えるから不思議だった。
紅玉から借りたらしい紫色のワンピースは、袖がないせいもあってハイリアの白さを強調させていた。
髪といい、肌といい、こいつは本当に白いのだと改めて気づかされる。
いつまでたっても白いままの、こいつのルフのようだとジュダルは思った。