第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
「もう少しなんだから頑張ってよ……。適当に仕上げなんてしたら、紅炎様に首締められるわよ? 」
「少しは休ませろよ……。だいたい、紅炎もちょっと穴が空いたくらいであんなに怒りやがってよぉ……、こんな書庫がそんなに大事なのか? 」
「ちょっとジュダル、聞こえるわよ! 中に紅炎様がいるのわかって言ってんの!? 」
青ざめるハイリアにジュダルはにやりと笑って言った。
「なんだよ、恐ぇーのかよ? 聞こえる場所にいるのがいけねーんだ。だいたい、おまえが逃げなきゃこんなことにはならなかったんだぜー? 」
「あれだけ追いかけてくれば逃げるわよ! 魔法を打ち込んできたジュダルがいけないんじゃない」
「ああ?! 先に魔装して挑発してきたのはおまえだろうが! 」
起きあがって苛立ち見てきたジュダルに、ハイリアはイラッとした。
「挑発なんてしてないわ。勝手に盛り上がった、ジュダルがいけないのよ! 」
「んだとー!! 」
「いいからさっさと片付けろ!! 」
塞ぎきっていない大穴から、紅炎の恐ろしい形相がみえて、ハイリアとジュダルは顔を引きつらせた。
「はい……、すみません」
揃って謝り、ジュダルも金槌を握りしめて、作業をしていた定位置へと戻った。
ここまで物静かなジュダルを見るのも珍しいことだ。
口では強いことを言っているが、彼も紅炎の怒りにはこれ以上、触れたくないらしい。
無口になって二人で再び作業を始めると、トンカンとしたリズミカルな音が響き渡った。
普段、落ち着いている紅炎が、ここまで怒っているのをみるのも初めてだ。
用事で呼ばれるたびに、よく本を読んでいる姿を見かけるから、読書が趣味だとは思っていたが、書庫の一部を壊しただけで、ここまで逆鱗に触れるとは思わなかった。
塞いだ屋根からもしも水漏れでもしようものなら、極刑にでもされそうな勢いである。