第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
すっかり攻撃に酔っているらしいジュダルが、楽しそうな笑みを浮かべながら氷塊からいくつもの氷槍を作り出した。
「サルグ・アルサーロス! 」
こちらに向かって降り注いできたいくつもの氷槍に、ハイリアは慌てて双剣をかまえた。
あの氷槍を宮廷に降らせるわけにはいかない。
「燃やし尽くせ! 蒼炎獣爪剣、アイニ・シャムシール! 」
振り降ろした双剣から、青白い炎が獅子の鉤爪のような形となって湧き上がり、降り注いできた氷槍を全て絡め取ろうと巻きついた。
青い炎は氷槍に燃え移り、鋭い切っ先を溶かし燃やし尽くす。
アイムの炎は分別をわきまえず何にでも火をつけるのだ。
それが例え水や氷のような燃えないものであったとしても火をともし、まとわりつく炎の効果で相殺へ導き、時に破壊する。
青い炎と共に蒸気となって消え失せた氷槍をみて、ジュダルは嬉しそうに高笑いした。
「やるじゃねーか! でも、おまえ忘れものしてるぜー? 」
にんまりと笑みを浮かべるジュダルが指をさした方を見ると、炎の領域を逃れたらしい氷槍の一つが、巨大な氷塊となり宮廷めがけてまっすぐ落ちていた。
あんなもの宮廷に落ちたら大惨事だ。
―― あれを打ち消すには……!
「やれよ、極大魔法! 」
ハイリアの心を読んだかのように、ジュダルが言った。
「そんなの、できるわけないでしょ!! 」
宮廷に向かって炎を巻き起こしたら、氷塊だけでなく宮廷にまでアイムの炎が及んでしまう。あれだけを壊すには直接打ち砕くしかない。
落ちる氷塊に向かって飛び込んでいったハイリアの背に向かって、ジュダルは悪戯に光弾を乱雑に打ち込んできた。
「ほらほら、落ちちまうぜー! 」
光弾が宮廷の屋根を弾き、空を移動するハイリアの肌をかすめていったが、そんなものを気にしている余裕はなかった。
目の前の氷塊に向かって炎の斬撃はできない。なるべく細かく切り裂き砕いて被害を少なくするしかない。