第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
「おい、きたねぇぞハイリア! 魔装なんかしやがって! 」
「何言ってんの? これで『おあいこ』でしょ~? 」
勢いをつけて遠ざかりながら、歯を見せて笑ったハイリアをみて、ジュダルはぴくりと顔を引きつらせた。
「……上等じゃねーか、ならやってみろよ。おまえが何やろうと、俺がぜってぇ捕まえてやるからよぉ! 」
目の色を変え、真っ黒なルフを彷彿とさせながら迫ってきたジュダルを見て、ハイリアは慌ててひらけた廊下から空へ飛び上がった。
―― やばい、本気にさせたかも!?
宮廷の空へ勢いよく飛び出していったハイリアのあとに、ジュダルが続く。
青空に空高く飛び出していった白と黒の二つの影を、宮廷の廊下を歩く官吏達が驚いて見上げていた。
後ろからバチバチとした火花が散る音が聞こえて振り返り見れば、不敵な笑みを浮かべながら、雷魔法を携えて杖をかまえているジュダルがいた。
「ほらよ! ぼうっとしてんと吹っ飛んじまうぜ! 」
ハイリアに向かって、巨大な稲妻が放たれた。
慌てて避けた雷魔法は、空中で激しい光を起こして轟音を響かせた。
「待って、ジュダル! ここで魔法は……! 」
言いきる前にハイリアへ向かって、マゴイの塊である光弾丸が乱射された。
右へ左へ避けながら飛び交うハイリアを、ジュダルは執拗に追いかけてきた。
下は宮廷だというのに、ジュダルは聞く耳を持たない。彼の赤い瞳は、嬉々爛々と輝いていた。
ハイリアから外れた光の弾丸のいくつかが、宮廷の屋根にぶつかって派手な音を立てた。
割れて穴があいた屋根瓦に青ざめる。
―― 早く、ここから離れないと!
宮廷がこれ以上ボロボロになる前にと、勢いを付けて稽古場の方へと飛び立とうとしたその時、ジュダルが氷塊を作り始めているのが見えてハイリアは目を見開いた。
「ちょっと! それは絶対だめだって! 」
「逃げ回ってばっかじゃ、つまんねーんだよ! 」