第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
「紅覇様~!! 」
ハイリアの大声に、紅覇は体をびくりと震わせて振り返り、勢いよく駆け込んでくる見慣れぬ女官の姿を見て、顔を引きつらせていた。
「なに、なにぃ~? 誰なの、おまえはぁ~? 」
目の前で急に立ち止まったハイリアを見て、紅覇はしばらく顔をしかめていたが、その白い肌とブドウ色の瞳の特徴ある顔立ちをみるなり、目を見開いて指を差した。
「えぇ? おまえが、ハイリアちゃん?! 」
「そうです。こんな姿で申し訳ないですが、これ、紅明様からの書簡です! 」
ほとんど押しつけるように、ハイリアは預かっていた緑色の巻物を、紅覇に手渡した。
「すみません、私、急ぎの用があるのでこれで失礼します! 」
慌ててそのまま走り去ろうとしたハイリアの腕を、紅覇はがっしりと掴んで放さなかった。
「なぁ~に言ってんの~? せっかく綺麗にしてるんだから、僕とも遊んでくれなきゃダメ~。炎兄と、明兄から聞いたよぉ~? 今日はずっとその格好なんでしょ~? 」
にんまりと楽しそうに笑みを浮かべながら紅覇が言った。
どうやら紅炎と紅明から、事情は聞いたらしい。やっかいなことになったと思いながら、ハイリアは慌てて言った。
「今度お付き合いしますから、今日は勘弁してください! もうジュダルが帰ってきたんです! 」
「あ~、ハイリアちゃん。どこかに隠れようとしてるでしょ~? それって紅玉との約束破りじゃ~ん! 」
「隠れはしません! 逃げるだけです! 」
きっぱりと言い切ったハイリアをみて、紅覇はにやりと笑った。
「じゃ~さぁ~、ジュダルくんを翻弄すればいいんでしょ~? 僕にいい考えがあるしぃ~! 」
「え、なんですか? いい考えって? 」
「それはさぁ~、ハイリアちゃんが変装すればいいんだよぉ~! 僕が上手くカモフラージュしてあげるからさぁ、僕の部屋においでよぉ~! 」
「なぁーに言ってるんですか! これ以上、着せ替えられるなんてごめんですよ! 却下です!! 」
とんでもないことを言い始めた紅覇に、ハイリアは顔を真っ赤にして言った。