第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
ハイリアは残ったあん饅を片手に、なんとか激渋なお茶を片づけると、次のお茶が出てくる前に席を立った。
「美味しいあん饅、ありがとうございました! 他の仕事もありますので、そろそろ失礼させていただきます」
「あら、そうなの? 仕方ないわね。また、いつでもゆっくりいらして下さいね」
穏やかな微笑を浮かべる白瑛に見送られながら、ハイリアは炊事場から出て御殿を後にした。
なんだか胃がきりきりと痛むのは、気のせいだということにして、急いで中庭方面へと戻ることにした。
気づけば日は高くなっていて、東寄りにあったはずの太陽は南寄りへと変わっていた。
―― まずい、そろそろジュダルが帰ってくる!
その前に、紅覇への書簡を渡し終えなければ色々と面倒だ。
慣れない裾の長い衣装に苛立ちながら走り、ようやく紅炎がよく使っている書庫近くまで辿り着いた。
柱や壁の隙間に隠れながら、その先の様子を伺って、ハイリアは血の気が下がる思いがした。
宮廷の中心に位置する通路には、官吏が溢れていた。
きっと、朝に行われる各々の会議が終わったのだ。この中を移動しなければならないのかと思うと、嫌で、嫌でたまらなかった。
しかし、ここを通り過ぎなければ紅覇がよくいる将官室へはたどり着けない。素知らぬふりして通り過ぎるしかないだろう。
まだジュダルがこちらへ戻ってきている様子がないのだから、チャンスは今しかない。
―― よし、行こう!
勢いを付けて中庭の通路へ駆け込んだ瞬間、前方の奥の通路から真っ黒なローブを着こんだ覆面の集団がこちらにやってくるのが見えて、ハイリアは青ざめた。
悪すぎるタイミングに慌てて辺りを見渡すと、右側の通路を歩いている紅覇の後ろ姿が見えた。急いで行き先を変更し、右の通路へと駆け込んだ。
通路を慌ただしく移動するハイリアをみて、何人もの官吏が振り返ったが、そんなの気にしている余裕はなかった。