第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
青舜は、なぜか引きつった表情で青ざめていた。それに、何やらこちらにジェスチャーを送ってくる。
手を合わせて謝るような格好をしながら、声を出さずに口元を動かして何かを言っていた。
『タ・エ・テ・ク・ダ・サ・イ』
よくわからないまま、ハイリアは湯飲みを持ち、お茶をすすった。
とたんに、温かさと共にとてつもなく苦い味が口の中に広がって、ハイリアはお茶を吐き出しそうになった。
慌てて堪えたが、口の中がとんでもないことになっている。
お茶をものすごく濃く入れたとか、そういう問題の味ではない。
苦みを有する薬だとか、食材だとか、そういったものを、ことごとく混ぜ合わせて濃縮したような味だった。
あまりの苦さに血の気が引いていった。
しかし、こんなに嬉しそうに笑顔を浮かべる白瑛の手前、お茶を吐き出すわけにもいかず、ハイリアは飲み込めずに喉が嫌がっているそのお茶を、無理矢理喉の奥へ通した。
そして、なるべく急いで皿に置いてある食べかけの饅頭にかぶりついた。
ほとんど表情を変えぬまま、行動できたのが奇跡だと思った。
「どうですか? なるべく熱くならないように気をつけて入れたつもりですけれど、お饅頭に合うかしら? 」
「……ええ、とっても美味しいですよ」
穏やかな笑顔を浮かべる白瑛に気づかれないように、ハイリアは必死で作り笑いを浮かべた。
全身に悪寒が走り、鳥肌が立っていた。
それがばれずにすんだのは、きっといつもよりひらひらして袖が長い、今日のこの格好のおかげだろう。
白瑛の後ろでは、彼女に見えないように青舜が手を合わせて必死で平謝りしていた。
彼が青ざめた表情をしていた理由がやっとわかった。きっと、白瑛は、お茶を入れるとか、料理するとか、炊事関係が苦手なのだろう。
青舜のあの表情から察するに、彼もこの兵器の被害者らしい。
しかし、どうやったらこんなにマズイお茶が入れられるのだろうか。こんな味を作り出してしまうとは、恐ろしい才能だ。