第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
穏やかでいつも優しい白瑛と違い、白龍はいつもこういう態度なのだ。
悪いことをした覚えもなければ、話したこともほとんどないのに、彼は冷たい。
青舜や白瑛と笑い合う姿を見かけるのに、自分を見かけたとたんに表情を硬くするから、いつも複雑な気分になる。
「もう、白龍ったら……。ごめんなさいね、きっと照れているのよ。気にしないで、こちらに座ってちょうだい」
素っ気ない白龍の態度に呆れながら、白瑛は炊事場の側にある机までハイリアを誘導すると、椅子に座らせた。
「ありがとうございます」
白瑛に心配をかけまいと作り笑いを浮かべて、ハイリアは言った。
「自慢じゃないけれど、白龍の料理の料理は私が作るよりもずっと美味しいの。きっとハイリア殿も気に入ると思うわ。白龍、用意をしてあげてね! 私はお茶を入れてくるわ」
にこにこと笑顔を浮かべながら、白瑛は茶器があるらしい隣の部屋にある戸棚へと歩いていった。
「あ……、ひ、姫様……!? お茶は私が入れますよ!! 」
慌てた様子で駆けていった青舜がいなくなると、炊事場には白龍とハイリアの二人が残された。
静かになった炊事場に妙に気まずい空気が流れた。
しゅーしゅーと蒸籠から出る湯気の音が、うるさく感じるくらい静かだった。
白龍は、静かに蒸籠を開けて、中からあん饅を一つ取り出すと皿にのせた。
それを持ってハイリアが座る机の側までくると、緊張して固まっているハイリアの表情を一度だけみて、すぐに視線を机へと向けた。
「どうぞ」
無表情ともとれる硬い表情のまま白龍は言って、出来たてのあん饅をハイリアの目の前に置くと、すぐにかまどの方へと戻って行ってしまった。
白い湯気がたつ、あん饅はとても美味しそうだというのに、妙な緊張感にすぐに手を出して良いものかと戸惑った。
隣の部屋から青舜の焦る声が響いてきたが、まだ白瑛が帰ってくる気配はない。
―― やっぱり、せっかく出来たてを頂いたわけだし、食べた方がいいわよね……。
かまどの方で、黙って饅頭の生地をのばし、新しい餡をつめている白龍の背中を見つめて、ハイリアはしばらく頭を悩ませてから、温かなあん饅へと視線を移した。