第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
宮廷内の廊下をこそこそと移動して人目を避けるようにしながら、離宮に程近い御殿に到着すると、ハイリアは急いで白瑛の姿を探した。
早く見つけなければ、だんだんジュダルが帰ってくることになる。
前皇帝陛下の御息女である白瑛と、御子息である白龍が暮らすこの御殿を訪れる機会はあまりない。
文官の手伝いで書籍を運んだりしたことは何度かあったが、勝手がわからなくて困った。
広い御殿をきょろきょろとしながら歩き回っていると、急に誰かに肩を叩かれた。
「何かご用ですか? 」
ビクリと体を震わせて振り返った後ろに立っていたのは、李 青舜だった。
白瑛の部下であり、同じ双剣の使い手なのもあって、よく稽古で手合わせをしている仲でもある。
見慣れぬ姿に不審者だと思われたのか、鋭い目つきで表情を硬くしていた青舜だったが、こちらの顔を見たとたん、その表情は驚きのものへと変わっていった。
「え……、ハイリア殿?! どうしたんですか、その格好!? 」
素直な反応に困り、ハイリアは目を泳がせた。
「いろいろ……、ありまして……」
こうなった経緯を話しながら、頬を赤く染め上げたハイリアを見て、青舜は慌てて言葉を付け足した。
「あ、いや……、似合ってますよ、すごく! 今日は白瑛様にご用で? 」
「はい……、紅炎様より書簡を預かりましたので、届けに伺ったんですけれど、どちらにいらっしゃいますか? 」
「姫様なら、白龍皇子とご一緒に炊事場にいらっしゃるはずですよ。私が案内しましょう」
にっこりと笑顔で言って、歩き出した青舜の後ろについていきながら、ハイリアは穴の中にでも入ってしまいたい気分だった。
稽古仲間である青舜にまで、こんな姿を見られてしまった。次からどんな顔をして会えばいいのかわからない。
突き当たった廊下を曲がり、まっすぐ行った先に、炊事場はあった。
「姫様、ハイリア殿が書簡を届けに来て下さいました! 」
炊事場に青舜の声が響いた。