第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
「たいしたものだな、おまえの知識量は。軍師にでもなれるのではないか? 」
「そうですね、ハイリア殿は器用なようですし、とても勉強熱心ですから」
「参謀なんて私には無理ですよ。それに器用なんかじゃないです。この知識だって、キャラバン育ちで、たまたま身に付いたものですから」
黒い線で塗りつぶされて随分と変わってしまった地図を見つめながら、ハイリアは複雑な思いを隠すように、軽く笑みを浮かべた。
「他にお手伝いすることはございますか? 紅炎様、紅明様」
「いや、ご苦労だった。もう下がっていいぞ」
地図をみて考え込んでいる紅炎が言った。
「私も特には……。ありがとうございます」
紅明も言った。
「では、失礼させていただきますね。また何かあればおっしゃって下さい。ジュダルが神事でいないこの時間であれば、ほとんど空いていますので……」
着慣れないひらひらとした服でハイリアが一礼をして、書庫の扉へと向きを変えたとたん、突然、紅炎が呼び止めた。
「待て、ハイリア。ちょうど良いからこれを、白瑛のところまで持っていけ」
思い出したように紅炎は言い、振り向いたハイリアに、茶色い帯の巻物状の書簡を手渡した。
「あ、はい、わかりました」
手元まである長い袖を煩わしそうにしながら、ハイリアが書簡を受け取ったのを見て、紅明もコホンと咳をしだした。
「では、私もこれをお願いしましょうか」
紅明はそう言って、袖口から巻物状の緑の書簡を取り出した。
「これを、紅覇に返しておいて下さい」
にっこりと微笑んで、紅明はハイリアにそれを手渡した。
「はい、わかりました。けど……、なんでお二人とも急に? 」
もう用はなかったはずなのに、急に思い出したように用事を作った二人の皇子に違和感を覚えて、ハイリアは眉をひそめた。