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【マギ*】 暁の月桂

第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕


「普段、あれだけ武術を磨いておきながら、そんなにいくさが嫌いか? 」

顔をしかめているハイリアを見て、紅炎が言った。

「嫌ですよ。争いは、いつも大切なものを奪っていきましたから。できることなら、戦争などしたくはありません」

「ハイリア殿の気持ちもわかりますが、世界統一を達成できれば、いくさも無くすことができるのです。
我らとて、始めから攻め込むつもりはありませんよ。できるかぎり交渉ですませたいところですが、そのためにも現地の情報がなるべく多く欲しいのです」

静かに言われた紅明の言葉を受け止めながら、ハイリアは苦笑した。

「……わかっています。私のような武官が、皇子から直々に頼まれたというのに、お教えしないわけにはいかないでしょう。軍隊が入れないような裏道もご所望なのですか? 」

「おまえが知る限り、すべての情報を教えろ」

ぎらりとした紅炎の視線に緊張しながら、ハイリアは机に広げられた地図に視線を落とすと、小さく息をついた。

入り乱れる見慣れた路線図に戸惑いながら指を置き、ゆっくりと口を開く。

地図上の場所を指で辿りながら語り始めると、自分でも驚くほど覚えていた情報の渦が、鮮やかな記憶と共に脳裏に湧き上がった。

地図の道を辿れば、一般的に移動で使われている道以外にも、キャラバン隊しか知らない道や、自分たちで見つけた裏道まで、情景豊かに思い出せた。

書かれていない集落や、周辺の街の特徴、物資調達の際の決まり事、その地域を治めている裏の責任者の名前、正規ではないが優良な店まで、すらすらと口から飛び出していって、自分でも呆れてしまうほどだった。

時々、紅炎から求められる、細かな説明についても丁寧に答えた。

紅明がその説明を聞きながら、地図上に記号で印をつけ、新たな道を書き加えていき、話し終えた時には、広い世界地図と、西方の拡大図の中に、細かな線や記号がびっしりと書かれていた。
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