第18章 緋色の夢 〔Ⅲ〕
「やっぱり思った通り、最高に似合うわぁ! ハイリアちゃん! 」
更衣をすませたハイリアをみて、紅玉が目を輝かせて喜んでいた。
紅玉の部屋で着させられたのは、普通の女官が着る服ではなかった。明らかに皇女が着るような上質な着物だ。
「ほ~らぁ、そんなしかめっ面してないで、鏡を見てみてよぉ! 可愛いじゃない! 」
紅玉に連れられて、鏡の前に立たされたハイリアは、映った自分の姿を見て固まった。
紅玉が着ている物と似た形の着物は、淡い青をベースに、紫や若草色が使われた綺麗なもので、とてもセンスが良いのはわかるのだけれど、立派すぎて衣装に着られているようにしか見えない。
ひらひらとした足下はどうも落ち着かないし、髪が整えられて後ろに下ろされているのも違和感がある。
長い髪が広がって乱れないように、ジュダルにもらった銀の髪留めが、腰の辺りでゆったりと髪を束ねているらしいが、自分からはよくみえないからわからない。
それよりも前髪を脇で留めている紫の花飾りが目立っていて、さっきから気になって仕方がない。
化粧もされたせいで、目元やら口元も違うようにみえて、なんだか自分なのに別人のように感じた。
「紅玉ちゃん……、私こんな格好で仕事してたら、怒られる気がするんだけど……」
「大丈夫よぉ、だってハイリアちゃんは、ジュダルちゃんの側近なのよ? それなりの格好していなきゃ逆に変よぅ。こっちの方がいつも着ている服なんかより、ずっと素敵だわぁ! 」
紅玉は嬉しそうに微笑んだ。
負けてなったことだし、文句は言えないのだけれど、今日の訪室予定の場所を考えるだけで、頭が痛くなってきた。
「ちょっとぉ! ハイリアちゃん、ため息なんてしないでちょうだいよぉ! 今日、ため息禁止ぃ!! せっかく可愛いんだから少しは笑ってよぉ! 」
「はいはい……」
よく見ているなぁと思いながら、ハイリアは出そうになっていた溜め息を引っ込めて、作り笑いを浮かべた。
「じゃあ、ハイリアちゃん。一日いってらっしゃ~い! 」
紅玉に送り出されながら部屋から出たハイリアは、廊下の様子を伺いながら目的地へと向かった。