第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
―― まったく、落ち着きがないんだから……。
打ち上がっている花火か、広場の舞踊でも見てくれていればいいのに、彼の興味は一つに定まらないようで、上を向いたり、下を向いたり、左にある屋台の街並を見始めたりと、忙しい。
普段からきっとそうやって物を見ているのだろう。
三つ組みに結わえた髪が、ジュダルの腰を過ぎる辺りまでハイリアが結わえ終わると、なぜかジュダルは、ずっと後ろ向きになってしまった。
結わえている様子を見ていたいらしく、じーっと手元を見つめられるせいで、余計にやりにくさを感じた。
編み込んでいた三つ組みの髪が、先端に近づいてきた時、毛先がやけにばらついているのに気づいて、ハイリアは手を止めた。
ジグザグになっている毛先に驚いて、こちらを見ているジュダルに目線を合わせると、何も言うなというような目で苛立ち見てきたから、ハイリアもあえてそこに突っ込むことはやめた。
するすると編みこんで、仕上げに持っていた茶色の紐で髪を巻き、結び留めると、ジュダルの髪型は、ほぼ元通りになった。
「おまえ、意外と器用なんだな……」
ハイリアが結んでやった三つ編みを、ジュダルは手にとってまじまじと見ていた。
「そう? これくらい簡単だから、きっと誰にでもできるわよ」
「……そうだ! これから、おまえが俺の髪を結い直せよ」
急に思い出したように、ジュダルが言い出した。
「え? でも、いつも髪は他の人に、ちゃんと結い直してもらえているんでしょ? 」
「おまえの方が上手いんだよ! 明日から、側近のおまえがしろ! 」
こんな三つ編み一つくらい、人によってそんなに変わりもしないと思うのに、ジュダルはやけに頑固だった。
「でも私、朝は稽古で早いから、ジュダルが早起きするか、稽古が終わってからじゃないとできないわよ? それでもいいの? 」
「いいから、おまえがやれ! 」
断りなんか許さないといった様子で、ジュダルは言った。
朝寝坊のジュダルが、早朝に起きられるかは、とても大きな問題だと思ったが、一度、決め込んだら聞かない彼のことだから、言い返しても無駄だろう。