第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
「おいっ! 何してんだよ!? 」
ハイリアが髪留めを外したことに、ジュダルはえらく動揺していた。
「だって、そんな髪を宮廷まで引きずって帰るわけにもいかないでしょ? 髪を結ってあげるから、ジュダルは花火でも見ててよ」
「おまえ、髪、結えんのか? 」
「失礼ねぇ……、これでも一通りはできるわよ! いつもの三つ編みでいいんでしょ? 」
ハイリアは、ジュダルの後ろに回り込んで座り、長い彼の髪に手を触れた。
漆のように光沢のある髪は、毎朝、丁寧にとかされているからか、指通りがとてもよかった。
「ああ、おまえに任せる」
ジュダルはそう言って、大人しく広場の方へと顔を向けた。
さらさらとした長い髪は、柔らかく、たっぷりとしていて、男性のものではないように思えた。
首に巻き付いている髪を引き寄せて、背中にまっすぐ垂らしてやると、髪は想像以上にとても長かった。
生まれてから一度も切ったことがないとは聞いていたが、屋根の上に広がる髪は、さながら漆黒の川のようだ。
きっと、彼が立ち上がっても、髪は地に付くのだろう。
三つ編みになるように三本の束をつくり、ハイリアは、髪をたがいちがいに順番に結わえ始めた。
人の髪を結わえるのは、随分と久しぶりだった。
とても懐かしい指通りだけれど、こんなに長い髪を結うのは初めてだ。
するすると手慣れた様子で、三つ組みに結わえていくハイリアを、ジュダルは時折、振り返り見てきた。
ちゃんと結べているのか気になるのかもしれないが、そのたびに頭が動くせいで結びにくくなるから、ハイリアは困った。
「ねぇ、ちゃんと前を向いててよ……。やりにくいじゃない」
「俺の勝手だろ? 」
言うことを聞かないジュダルに、どうにも座っているとやりにくくなって、ハイリアは仕方なく膝で立ち、時折、頭を動かす彼の動きに合わせる羽目になった。