第17章 緋色の夢 〔Ⅱ〕
祭りの最高潮を迎えた煌の夜空には、あちこちからいくつもの花火が打ち上がり、鮮やかな光の大輪を広げていた。
光り輝く花の下では、その華やかさに見劣りしない色鮮やかな獅子たちが踊り狂い、その上を龍が駆け抜けていた。
広場で行われている見事な舞踊は激しさを増し、踊りと一緒に音楽も、それを見ている市民の歓声も上がっていった。
そんな花火も、舞踊も一望できる、瓦屋根の特等席にハイリアは座っていた。
屋根の上から見ることが出来る、盛り上がる街の景色に、瞬きなんてする暇もない。
きらびやかな舞踊と花火に目を輝かせながら、拍手をして喜んでいるハイリアの隣に、どっかりと黒い影が座り込んだ。
「一人でよくそんなに騒げるよなー……」
気づけば、ジュダルが帰ってきていた。
買い物に行ってくるといって出掛けたはずなのに、なぜか彼の手には何も持たれていなかった。
「あれ? 買い物に行ってきたんじゃなかったの? 」
「もういい、飽きた」
膨れっ面で座り込んでいる彼に、どこか違和感をかんじて、その首周りに無造作に巻かれた長い黒髪に気づき、ハイリアは目を見開いた。
ジュダルの三つ編みが、ただの一つ結びになっている。
「その髪、どーしたの!? 」
「うっせぇーな! 結び紐が切れたんだよ! 」
目を丸くしているハイリアをみて、ジュダルは苛立った様子で声を張り上げた。
普段、あれだけ動いても解けない結び紐が切れるなんて、いったい何があったのだろうか。
よく見れば、肩からずり落ちた髪は、いくらか広がって瓦屋根の上に垂れ落ちていた。
髪の量が多いだけに、随分動きづらそうだった。
―― 結び紐の予備なんて持ってないし……。
ハイリアは、仕方なく自分の髪を結んでいる髪留めの紐を引いて解いた。腰まである白髪が、落ちて背中に広がった。